【書評:1631冊目】生きづらさについて考える(内田樹)

【この国の生きづらさはどこから来ているのか…】
思想家・内田樹氏が、『生きづらさについて考える』と題して、日本を覆う”閉塞感”の原因と打開策のヒントを、歴史や思想を紐解きながら哲学的に考察する一冊。

■書籍の紹介文

平成から令和へと時代は移り変わりました。
あなたにとって、平成とはどういう時代でしたか?

 

本書は、世界は移行期的混乱にあるのに、日本は対応できずに硬直化していると指摘し、その原因と打開策のヒントを哲学的に考察する一冊。

 

「時代のニーズに合わなくなった」。
個人的に、学生から社会へと飛び出した平成の時代を振り返ると、いろいろなところでこのフレーズを聞いた気がします。

 

合わせて、「諦め」「縮小均衡」「現状維持」という空気を、社会から感じ取った時代だとおもいます。
あなたは、どのように感じたでしょうか。

 

誰もが、既存のシステムやルールが壊れかけていることに気づいています。
しかし、歴史上では幾度となくくり返されている、現状を壊して新しい時代を築こう!という大きなうねりも起きません。

 

今日壊れるかもしれない、今日壊れるかもしれないと不安を抱えながら過ごす。
かと言って、新しい風も起こせないし、起きない。

 

これでは「生きづらさ」を感じて当然だとおもいます。
ではなぜ、日本社会はこんな状態になってしまったのかを、著者流の思想で解き明かしていきます。

 

何事もそうですが、原因がわからなければ対策が立てられません。
「生きづらい」と嘆くだけでなく、「この生きづらさはどこから来ているのか?」と掘り下げなければ原因はみえてきません。

 

そのためには、人文学や哲学、歴史、思想といった”掘り下げるための道具”が必要です。
ここについても、現代の日本人は決定的に衰えていると著者は指摘します。

 

いかに、道具を磨き、原因を探り、原因から解決策を探り当てるのか。
生き延びてゆくためには、すぐに取り掛かる必要があります。

 

この、取り掛かるにあたっての”キッカケ”として、本書はとても示唆に富んでいます。
多岐に渡るテーマについて、「こう思うけど、あなたはどう思う?」と思考を刺激されるからです。

 

正解はないけど、最適解はある。
この最適解をみつけるために、国民一人ひとりが考えたい、そんな一冊です。

 

最後に、本書はさまざまな媒体に寄稿したエッセイを一冊にまとめたものです。
そのため、意図的に統一しなかったかは不明ですが、文体やタッチがコロコロ変わります。

 

最初のうちは違和感を感じますが、読み進めるうちによいアクセントに感じるようになります。
気にせず読み進めることをオススメしますと、付記します。

 

◆原因を探ることをサボるな!

生きづらさについて考える
内田樹 毎日新聞出版 2019-8-24
売上ランキング(公開時):6,695
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■【要約】15個の抜粋ポイント

私たちは歴史からほとんど何も学ばない。
同じ愚行を、そのつど「新しいこと」をしているつもりで際限もなく繰り返す。
それが私が歴史から学んだ最も貴重な教訓の一つである。

 

有史以来、人類は、性差や肌の色や信教や階級や貧富など、さまざまな外形的な指標に基づいて他人を格付けし、それに基づいて、権利や自由や財貨や情報を傾斜配分してきた。
格付け基準は歴史的・地理的条件によって変わった。
何をもって人を格付けするかということは、誰かが政治的に決定できることではない。
それは無意識的かつ集団的に行われる。

 

現代日本社会で「隣国から学ぶ」ことの大切さを忘れているという事実そのものが「日本が知的後進国に転落した」ことの証なのだ。
そのことに日本人はいつ気づくのだろう。

 

今さら定義を確認するまでもないが、立法府は「法律の制定者」であり、行政府は「法律の執行者」である。
この二つが別の機関であるような政体を「共和制」と呼び、法律の制定者と執行者が同一である政体のことを「独裁制」と呼ぶ。
安倍首相は「私は立法府の長である」と口走ったときに「日本は独裁制である」と言い間違えたのである。
普通なら政治生命が終わるはずの失言である。
後からこっそり議事録を書き換えて済む話ではない。

 

ナショナリズム、レイシズムの克服は原理的に困難だと思います。
人間は精神の安定を得るためには、ある種の集団に深く帰属しているという政治的「幻想」をつねに必要としているからです。

 

「最悪の事態が到来するまで何もしない」というのは、日本の組織に限って言えば、それなりに合理的な解である。
そのことは残念ながら認めなければならない。
というのは、日本人は「最悪の事態」について考えると、とたんに思考停止して、絶望に陥り、使い物にならなくなるからである。
ほんとうにそうなのだ。

 

断言させてもらうが、大学の学術的生産力の劇的低下は大学の株式会社化の必然の帰結である。

 

日本の大学の劣化は「貧して鈍した」せいである。
「貧する」ことはよくあることで恥じるには及ばない。
だが、「鈍した」ことについては恥じねばならない。

 

自分たちがいま生きている社会が金魚鉢のように閉ざされた狭い空間であることに気づいて、生き延びる道を見つけること、人文学を学ぶ意味は、そこにあります。

 

人間は失敗から学びます。
でも、震災は天災であって、失敗ではない。
原発事故は違う。
これは人災です。
ここから何を学ぶかは日本の未来にとって死活的に重要なことだと僕は思います。
この人災から学ぶべきことを学べば日本に未来はある。
学ぶべきことを学ばなければ、未来はない。
それくらいに決定的なシステムの破綻だと思います。

 

ことリスクに関しては、リスクを過大評価して失うものと、過小評価して失うものでは、失うものの桁が違います。
「想定外のこと」が起こるかもしれないと思っている人間の方が、「想定外のこと」は起こらないと思っている人よりは生き延びる確率は高い。

 

日本が「落ち目」だということについての国民的合意が形成され、なぜそうなってしまったのか、そこからの回復の方位はありうるのかについての自由闊達な議論が始まらない限り、この転落に歯止めはない。

 

リタイアすることの最大のリスクは、「現場を失う」ことです。
メディア経由の情報しか触れることができず、加工される前の「生もの」の現実との接点を失うことです。
それについて退職者は十分に危機感を持った方がいい。

 

いい人になる。
いや、別にならなくてもいいんです。
「いい人のふりをする」だけでいい(笑)。
あまり言われないことですけれど、それが年を取ってから活動的であるための秘訣だと思います。

 

私が読者のみなさんにご推奨するのは、なにか異変を感知したら、「ほう、いつのまにこんなことが」と目を丸くしてみることである。
驚くことを楽しむのである。

 

■【実践】3個の行動ポイント

【1631-1】周辺国の主要新聞に触れることを習慣にする

【1631-2】人文学系の本を読んで、見識を磨く

【1631-3】新しい発見をしたら、素直に驚くことを楽しむ

■ひと言まとめ

※イラストは、イラストレーターの萩原まおさん作

■本日の書籍情報

【書籍名】生きづらさについて考える
【著者名】内田樹著者情報
出版社毎日新聞出版
【出版日】2019/8/24
オススメ度★★★★☆
こんな時に考える力を身につけたいときに
キーワード教養生き方考える
【頁 数】320ページ
【目 次】
第1章 矛盾に目をつぶる日本人
第2章 気が滅入る行政
第3章 ウチダ式教育再生論
第4章 平成から令和へ生き延びる私たちへ
第5章 人生100年時代を生きる

 

この本が、あなたを変える!

生きづらさについて考える
内田樹 毎日新聞出版 2019-8-24
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内田樹さん、素敵な一冊をありがとうございます(^^)

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