【書評:1957冊目】引き裂かれるアメリカ(町山智浩)

【自由が歪むアメリカの実情を見る】
コラムニスト・町山智浩氏が、『引き裂かれるアメリカ』と題して、現地取材で集めた当事者の生の声をもとに、日本では伝わっていない分断が進むアメリカの実情を解説する一冊。

■書籍の紹介文

アメリカに対するイメージ。
あなたは、どんなイメージを持っていますか?

 

本書は、町山智浩のアメリカの今を知るTV』(BS朝日)の内容をベースに、当事者の生の声から伝わってくる、分断が進むアメリカの実情を解説する一冊。

 

・武装市民による連邦議会の占拠
・乱射事件がいくら起きても動かない銃規制
・止むことのない人種間の衝突

 

「極端」「過激」「やり過ぎ」・・・。
アメリカから伝わるニュースを前に、そんな言葉が口から出てしまう機会が増え続けているように感じます。

 

アメリカと聞くと、憧れや目標といったイメージを抱きやすい日本人。
しかし、そのイメージは、アメリカをある一面からしか見ていないからできるということを、見せつけられる内容になっています。

 

こんな国には住みたくない。
そんな感情さえ湧き上がってくるほど、アメリカは今”歪んで”います。

 

ただ、以前なら問題を内包しつつも国全体としては、”星条旗”のもとにまとまっていたように感じられます。
それがなぜ、バラバラに引き裂かれ、裂け目が広がり続けるようになったのでしょうか。

 

この大きな疑問に、現地の生の声を多数拾いながら、掘り下げていきます。
アメリカという大きな存在を見誤らないためにも、きちんと押さえておきたい一冊です。

 

「白人は少数民族になりたくない」。
この表現がとても心に引っかかる、濃いリポートをどうぞ。

 

◆アメリカの今を知る。

引き裂かれるアメリカ
町山智浩 SBクリエイティブ 2022-12-6
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■【要約】15個の抜粋ポイント

ピューリサーチセンターの調査(2014年)によると、福音派は6割以上が中絶禁止派ですが、カトリックの中絶反対派は半分に満たないです。

 

アメリカでは銃は「買い放題」です。
軍隊や警察ではなく、私的に所有されている銃は登録された数だけでなんと3億9300万挺もあります。
人口が3億3000万人なので、人口より多い。

 

アメリカ建国当時の政教分離は、キリスト教の宗派の自由を保障するものでしたが、その後、ユダヤ教やイスラム教などキリスト教以外の宗教者も移民してきました。
それに、無神論者も増えていきました。
信教の自由は、それらすべてを守らなければなりません。

 

アメリカで実際に投票したことのある人なら、不正なんて起こりえないことを知っているはずなんです。
この国では、日本の選挙と違い、「成人なら誰でも投票できる」わけではないんです。
投票には、事前に居住地の選挙管理委員会に申請して「有権者登録」が必要です。
身分証明書や居住証明、それにサインを登録します。

 

白人至上主義的なトランプ氏が白人の人気を集めたことで、それが共和党のスタンダードになった今では、非白人を支持層に取り込んでいくことの難易度はさらに上がりました。
そこで、共和党が選挙に勝つための方策が、黒人やヒスパニックに「投票させない」ことなんです。

 

今、アメリカの連邦最高裁判所が暴走しています。
投票権の侵害を合憲とした判決に始まり、ニューヨーク州の銃規制を違憲とし、政教分離の原則を踏みにじり、ついには中絶の権利を女性から奪った最高裁は、さらに同性婚や同性愛、加えて避妊までをも禁じようとしています。

 

興味深いのは、Qアノン信者の多くが「Qアノンが誰なのかは重要でない」と言っている点です。
彼らは既に投稿者としてのQアノンと無関係に、不正選挙や新型コロナ・ワクチンなど、あらゆる陰謀論を内包するコミュニティになっています。
2022年2月に発表された、PRRI(公共宗教研究所)の調査によると、アメリカ国民の4400万人以上、共和党支持者の4分の1がQアノンを信じているということになります。

 

1人の人がつけた「いいね」を68個集めれば、本人に自覚がなくても、その人の人種、政治的傾向、性的指向、要するに女性を好きか、あるいは男性を好きかなどについて、9割の確率で当てることができる、と証明したんです。

 

「監視資本主義」は人間の行動データを商品として扱います。
つまり、人々の個人的な経験や行動データを無断で集めて、様々な企業に売るんです。

 

議会襲撃のビデオが精査されて判明したんですが、烏合の衆でしかない暴徒たちを、うまく指揮して、警備を突破させた「プロ」たちが大勢いました。
警察や軍のベテランたちです。
「何よりも憲法を守る」と言っている彼らが、憲政の根幹である選挙と憲政の象徴である連邦議会を暴力で踏みにじろうとした事実に、今のアメリカの病理があります。

 

アメリカの白人の本音は、「少数民族になりたくない」につきます。

 

オバマ氏の就任によって白人至上主義が加速し、黒人差別と移民への憎悪が1つになりました。
アメリカの歴史において移民は国を活気づけてきましたが、同時にアメリカの暗い一面をも目覚めさせたんです。

 

国境で難民を追い返すよりも、彼らが国を捨てなければならなかった理由を考えて、その根本を解決しないと難民は減りません。

 

アメリカ人は世界の人口の約5%なのに、全世界のオピオイド(麻薬性鎮痛薬)依存者の約80%を占めています。

 

水は大きな力で何かにぶつかる時もあれば、避けながら流れる時もあります。
差別にもそのように対処できればと思います。
ブルース・リーは自分の武術に水の性質を取り入れました。
時には強く、時には柔らかく、状況に応じて変化するんです。
差別に対しても、たとえば、相手が硬くて動かなければ、水のように周囲を自由に動き対処するのです。

 

■【実践】3個の行動ポイント

【1957-1】米国のニュースソースで情報収集する習慣をつける

【1957-2】受け入れられなくても、理解する姿勢は疎かにしない

【1957-3】「自分はどうだ?」という問いかけを常に持っておく

■ひと言まとめ

※イラストは、イラストレーターの萩原まおさん作

■本日の書籍情報

【書籍名】引き裂かれるアメリカ
【著者名】町山智浩著者情報
出版社SBクリエイティブ
【出版日】2022/12/6
オススメ度★★★☆☆
こんな時に教養を伸ばしたいときに
キーワード教養グローバル考える
【頁 数】288ページ
【目 次】
第1章 レイプより中絶のほうが重罪に
第2章 車には免許がいるが、銃には免許がいらない
第3章 政教分離の守護神は悪魔
第4章 アメリカで「不正選挙」があり得ないわけ
第5章 南部の投票所が次々と消滅!?
第6章 最高裁が自由と平等の国をちゃぶ台返し!
第7章 反ワクチンや議会襲撃を醸成したQアノン
第8章 趣味志向、行動、投票先…すべては監視されている?
第9章 武装集団は最高の愛国者?
第10章 白人至上主義者は臆病者?
第11章 不法移民は、なぜ中米三角地帯から来るのか?
第12章 「痛み止め」オピオイドで毎日100人が死亡!
第13章 アジア系は「移民の優等生」から脱却できるか?

 

▼さっそくこの本を読む

引き裂かれるアメリカ
町山智浩 SBクリエイティブ 2022-12-6
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町山智浩さん、素敵な一冊をありがとうございました!

※当記事の無断転載・無断使用は固くお断りいたします。

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