【書評:203冊目】わかりあえないことから(平田オリザ)

【コミュニケーションの正体を探る】
演出家・平田オリザ氏が、あらゆる場面で求められるコミュニケーションとは一体なんなのかに迫った一冊。「わかりあえないことから」はじまるコミュニケーション論は奥深い。

■書籍の紹介文

理解できないな。
他人の価値観に触れて、そう思う機会が増えていませんか?

 

本書は、「コミュニケーションって結局なんなのか」このモヤモヤを晴らすべく、日本人が直面しているさまざまな問題を考察しつつ、答えを探っていく一冊。

 

日本では、訪問先では靴を揃えてから上がるのがマナー・礼儀とされます。
しかし、韓国では、この行為は「そんなに早く帰りたいのか!」と非礼に値します。

 

読みはじめはやや入り込みづらい印象を受けます。
ですが、徐々にこのような比較文化論に通ずるテーマが出てきて、読み物としても楽しめる内容になっています。

 

グローバル化で求められる「異文化理解力」と日本社会として求められる「同調圧力」。
現代社会を生きるわれわれは、この2つのプレッシャーに大きく晒されていると著者は指摘します。

 

こうした、社会的変化の中で叫ばれる「コミュニケーション能力」とは何か。
「最近の若者にはコミュニケーション能力がない」という嘆きは本当なのか。

 

考察していく過程が、とても興味を惹かれます。
コミュニケーションに悩む人にとっても、おおいに参考になる本だと感じます。

 

「関係のないところに言葉は生まれない」。
この一言にハッとさせられました。

 

◆コミュニケーションを考える。

わかりあえないことから
平田オリザ 講談社 2012-10-18
売上ランキング(公開時):5,054
Amazon Kindle 楽天

■【要約】15個の抜粋ポイント

日本社会全体が、コミュニケーション能力に関するダブルバインド(「異文化理解能力」と日本型の「同調圧力」の二重拘束)が原因で、内向きになり、引きこもってしまっている。

 

いま、中堅大学では、就職に強い学生は二つのタイプしかないと言われている。
一つは体育会系の学生、もう一つはアルバイトをたくさん経験してきた学生。
要するに大人(年長者)とのつきあいに慣れている学生ということだ。

 

(辞書ベース)
「会話」=複数の人が互いに話すこと。また、その話。
「対話」=向かい合って話し合うこと。また、その話。
(著者の定義)
「会話」=価値観や生活習慣なども近い親しい者同士のおしゃべり。
「対話」=あまり親しくない人同士の価値観や情報の交換。あるいは、親しい人同士でも、価値観が異なるときに起こるその摺り合わせなど。

 

とことん話しあい、二人で結論を出すことが、何よりも重要なプロセスなのだ。

 

演劇に限らず、音楽、美術など、どのジャンルにおいても海外で成功している芸術家の共通点は、粘り強く相手に説明することをいとわないところにあるように思う。
日本では説明しなくてもわかってもらえる事柄を、その虚しさに耐えて説明する能力が要求される。
私はこの能力を、「対話の基礎体力」と呼んでいる。

 

私たちが、「あの人は話がうまいな」「あの人の話は説得力があるな」と感じるのは、実は冗長率が低い人に出会ったときではない。
冗長率を時と場合によって操作している人こそが、コミュニケーション能力が高いとされるのだ。

 

私たちは、いま話されている話し言葉一般を、空気のように自明のものとして使っているが、その多くは、先人によって作られた言葉だということを忘れてはならない。

 

日本語の二〇〇〇年あまりの歴史の中で、女性が男性に命令をしたり指示したりする関係は、母親が子どもに指示する関係以外になかった。
関係がなければ言葉は生まれない。

 

新しい時代の、新しい女性の話し言葉は、いま、確実に過渡期にある。
もちろん、言語は常に変化していくものだから、どんな時代でも「過渡期」と名付けてしまえばそれまでなのだが、それが、どこからどこへ向かっての変化なのかを意識することには、多少なりとも意味がある。
この点に関して言えば、現代社会は、ジェンダーや年齢といった区別なく、対等な関係で「対話」を行うための言葉を生成していく「過渡期」だと言っていいだろう。

 

日本語は、大きな諸言語の中で、もっとも性差の激しい言葉の一つである。
このことが、無意識のレベルで女性の社会進出を阻んでいることは、おそらく間違いない。
社会の変貌と共にこの点が変わっていくのは、もう止めようのない変化である。
実際に、中高生くらいまでは、話し言葉の男女差は、急速に縮まってきている。

 

それぞれのコミュニケーションの文化には、それぞれの特徴があり、由来があり、おそらく欠陥もあるだろう。
その欠陥は、異文化と接触したときに露呈することが多い。
しかし欠陥があったからといって、自分たちの文化を卑下することはないし全否定する必要もない。

 

イヌイットは、雪を描写する言葉を数十も持っていると言われる。
一方、私たちの日本語は、色彩に関する表現では、世界有数の語彙を有すると言われる。
白一色のイヌイットの世界では、色彩の語彙は少ない。

 

「コミュニケーション教育、異文化理解能力が大事だと世間では言うが、それは、別に、日本人が西洋人、白人のように喋れるようになれということではない。欧米のコミュニケーションが、とりたてて優れているわけでもない。だが多数派は向こうだ。多数派の理屈を学んでおいて損はない」
この当たり前のことが、なかなか当たり前に受け入れられない。

 

「心からわかりあえないんだよ、すぐには」
「心からわかりあえないんだよ、初めからは」
この点が、いま日本人が直面しているコミュニケーション観の大きな転換の本質だろうと私は考えている。

 

「みんな違って、たいへんだ」

 

■【実践】3個の行動ポイント

【203-1】粘り強く説明する意識を持つ

【203-2】違和感をもった表現を書き溜めておく

【203-3】最初から分かりあえると思わない

■ひと言まとめ

※イラストは、イラストレーターの萩原まおさん作

■本日の書籍情報

【書籍名】わかりあえないことから
【著者名】平田オリザ
出版社講談社
【出版日】2012/10/18
オススメ度★★★☆☆
こんな時に教養を伸ばしたいときに
キーワード人間関係コミュニケーション社会
【頁 数】232ページ
【目 次】
第1章 コミュニケーション能力とは何か?
第2章 喋らないという表現
第3章 ランダムをプログラミングする
第4章 冗長率を操作する
第5章 「対話」の言葉を作る
第6章 コンテクストの「ずれ」
第7章 コミュニケーションデザインという視点
第8章 協調性から社交性へ

 

この本が、あなたを変える!

わかりあえないことから
平田オリザ 講談社 2012-10-18
売上ランキング(公開時):5,054
Amazon Kindle 楽天

平田オリザさん、素敵な一冊をありがとうございます\(^o^)/

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