【書評:2090冊目】AI失業(井上智洋)

【極端な情報や主張にミスリードされないために】
経済学者・井上智洋氏が、『AI失業』と題して、AIにより明暗の分かれる仕事・業界を考察しながら、人工知能がわたし達の雇用と経済に与える影響を解説する一冊。

■書籍の紹介文

あなたの仕事はAIの影響をどれくらい受けるとお考えですか。
こう聞かれたとき、あなたは何と答えますか?

 

本書は、「AIによる失業」が現実的な脅威となり始めた今、改めて冷静に問題を直視すべきだと提起し、AIによって我々の仕事・経済・社会はどう変わるのかを良い面と悪い面を合わせて解説する一冊。

 

人工知能、スマート化(自動化)、生成AI、・・・。
耳にしない日はないというくらい”一般化”してきました。

 

「AIが仕事を奪うなどあるわけがない!」と多くの人がはじめは思っていたことでしょう。
ですが、徐々に「あれ?」「本当に大丈夫か?」と不安を大きくし始めています。

 

こういうときに大切にしたいこと。
それは、極端な情報や主張にミスリードされないこと、です。

 

脅威だと煽り、あなたの不安を増幅させてミスリードするモノ。
革命だと煽り、あなたの射幸心を刺激してミスリードするモノ。

 

新しい潮流が起こると必ずこうしたモノが跋扈します。
これらに煽られて右往左往してしまうと、それこそ”失業”一直線です。

 

こうならないためにも、相手の正体はなんなのか、どんな影響を与えてきそうなのか。
冷静に本質的な部分を掘り下げていくことが何より重要です。

 

AIは今の仕事の生産性を高めてくれるから大歓迎!ではないのです。
生産性が高まるということは、高まった分だけ必要のない雇用が生まれる、というところまで考えないといけません。

 

今の仕事に新たなに就こうとする人の競争は、当然激化します。
すると、万が一あなたが今の仕事を失ったとき、同じ仕事の職を見つけるのがとても困難になるわけです。

 

まさに、冷静な状況把握と対策の模索が取れるかが、仕事を奪われてしまうかの分岐点となるのです。
そこで読んでおきたいのが本書です。

 

AIの本格的な一般化によって、仕事・経済・社会がどんな影響を受けるのか。
良い面も悪い面もフラットに論じられており、冷静な状況把握と対策の思案にうってつけだと感じる一冊です。

 

一部の学者にありがちな一方的で独善的な主張がないので、とても読みやすいです。
淡々と分析をしながら、経済学の多様な視点を用いて、現実的な変化・未来像を示していきます。

 

すでに現実の脅威と捉えている人から、いまいちピンときていない人まで。
AIによって起こされる影響、読んでおきたい内容です。

 

◆未来は明るい?それとも・・・。

AI失業
井上智洋 SBクリエイティブ 2023-11-7
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■【要約】15個の抜粋ポイント

AIの今後の進歩によって、ますます簡単に作品を生み出せるようになるはずです。
したがって、究極的には「アイディア即プロダクトの経済=費用ゼロの経済」となるわけです。

 

AIは今の技術の延長線上では、人間同様のレベルで言葉の意味やニュアンスを理解することができません。
それは、人間は生命であるのに対し、AIは生命ではないからです。
それでは、生命である人間は一体何を持っているのでしょうか?
それは、「意志」「体験」「価値判断」の3つだと考えられます。

 

現場で困っている人と技術を持つ人をつなぐ役割が必要となります。
そうした職業であるAIソリューションプランナーの需要も、これからますます高まっていくでしょう。

 

これからホワイトカラーは、ブルーカラーへ移動するか、AIにはない能力を発揮するか、失業を甘んじて受け入れるか、といった選択を迫られるでしょう。

 

仕事が楽になることと雇用が減ることは裏表の関係にあります。

 

AIは普及が速いのに対し、ロボットの普及は遅いという速度差が、ますますこのミスマッチ(補記:人手余りのホワイトカラー職と人手不足のブルーカラー職)を拡大させることになります。
それを防ぐには、ブルーカラーの地位向上と賃金上昇を図るような国の政策が必要でしょう。

 

第三次産業革命で起きたことは情報のデジタル化であるのに対して、第四次産業革命として起こりつつあることは「頭脳労働のAI化」「肉体労働のロボット化」、そして「万物のスマート化(物質的なモノをAIなどの技術によってコントロールできるようにすること)」と盛りだくさんです。

 

物質的なモノをデジタル技術でコントロールするスマート社会で中核的な役割を果たすしくみが、「サイバー・フィジカル・システム」(CPS)です。
これはよく、「サイバー空間とフィジカル空間の融合」として表現されます。

 

未来の世界は、メタバースとスマート社会に分岐しているのです。

 

国家を発展させる方向性に関する根本的な錯誤があるのですが、政治家や国民はそれになかなか気づけないのです。
その錯誤というのは、AIのような科学技術の進歩よりも、領土の拡大が国家の繁栄にとって重要だというものです。

 

「技術」「資本」「労働力」(人的資本)という3つの生産要素が進歩し増大することによって、GDPが増大(経済規模が拡大)していくことが経済成長です。

 

あらゆる物理的なモノがAIやIoTによってスマート化されていくとするならば、今とは比べものにならない量の半導体が必要となります。
第四次産業革命で主力となるのはAIですが、それを土台で支えるのは半導体なのです。
したがって、可能であるならば、日本は国を挙げて半導体産業をよみがえらせるべきでしょう。

 

AIが紡ぎ出す言葉が、人間が口にする言葉と区別できないのであれば、人間も機械とさほど変わらないのではないか。
そんな疑念が不安とともに湧いてくることがあります。

 

凡庸だとかクリエイティブだとかにかからわず、すべての人間の生を肯定することが、AI時代になによりも大切だと考えられます。

 

労働して人の役に立つことは素晴らしいことですが、それ以上に大切なのは、労働しているか否かにかかわらず、すべての人の生が価値を持っているということです。
(略)、社会全体がそういう価値観に転換していかなければ、AIの発達によって多くの人々が絶望感に打ちひしがれるようになるでしょう。

 

■【実践】3個の行動ポイント

【2090-1】自分の仕事(能力)の棚卸しをする

【2090-2】【2090-1】で棚卸しした仕事(能力)のうち、AI化やスマート化されそうなものを仕分ける

【2090-3】【2090-2】の仕分けの結果、残った要素へ集中的に自己投資する

■ひと言まとめ

※イラストは、イラストレーターの萩原まおさん作

■本日の書籍情報

【書籍名】AI失業
【著者名】井上智洋著者情報
出版社SBクリエイティブ
【出版日】2023/11/7
オススメ度★★★★☆
こんな時に明日の仕事力を磨きたいときに
キーワード社会働き方サイエンス
【頁 数】264ページ
【目 次】
第1章 生成AIは仕事のあり方をどう変えるのか?
第2章 人工知能は私たちの仕事を奪うのか?
第3章 人工知能が引き起こす新たな産業革命
第4章 人工知能は日本経済をどう変えるのか?
第5章 人工知能と人間は共生可能か?

 

▼さっそくこの本を読む

AI失業
井上智洋 SBクリエイティブ 2023-11-7
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井上智洋さん、素敵な一冊をありがとうございました!

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