【読書量の減少は心の余裕のなさの現れ】
文芸評論家・三宅香帆氏が、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』と題して、日本人の仕事と読書のあり方の変遷を辿りながら、本を嗜む心の余裕がある社会づくりを提唱する一冊。
もくじ
■書籍の紹介文
落ち着きのなかで本を読む。
あなたの日常生活において、それはどれくらい難しいことですか?
本書は、「労働と読書は両立しないのか?」という問いに始まり、日本人の仕事と読書のあり方の変遷を辿りながら、本を嗜む心の余裕がある社会づくりを提唱する一冊。
「どうすればもっと速く本を読めますか」
「効率的に読書をするうえで心がけていることはありますか」
当ブログを運営していると、定期的にこのような質問がきます。
そして、毎回「どうやって返事をしようか」と悩まされています。
ただ単に、本を読み慣れているから、速読しているように感じられるだけ。
本を読み慣れているから、「接続詞(語)」を活用して文章の要点を押さえているだけの行為が、独自の読書術を駆使しているように感じられるだけ。
したがって、本を速く読むことに価値があるとはおもっていません。
もちろん、本を読むことに効率を求めておりません。
このように素直に回答をしても、「そんなわけない」とか「課金しないと教えてもらえないんですね」と勝手に解釈されます。
この解釈の違いというかボタンのかけ違いはどこに原因があるのか、たまに考えてしまいます。
そんなモヤモヤした気持ちをパッと晴らしてくれた存在。
それが本書です。
見事に気持ちを言語化してくれており、ついつい、「そうそう」「腑に落ちるな〜」と相槌が大きくなってしまいました。
カフェで横に座っていた方、申し訳ございません(気持ち悪かったとおもう・・・)。
「読書をすること」と「情報を収集すること」。
個人的には、この線引きが曖昧になっているからこそ、「仕事が忙しくて本が読めない」がもっともらしい”言い訳”として多用されているように感じています。
著者は、この点を「そう”言い訳”しないとやっていられないほど社会システム全体が問題を抱えている」と捉えています。
そのうえで、なぜそんな状態に社会がなってしまったのかを、日本人の仕事と読書のあり方の変遷を辿りながら考察していきます。
読書の歴史を通して、日本社会における労働の問題点を見つめていく。
切り口がとてもおもしろく、「学んだ!」と「楽しかった!」と「考えさせられた!」を同時に味われる”良書”です。
読んだほうがいいのは分かるけど、周りも読んでないっていうし(疲れているし/かったるいし)別にいいか。
このような認識の人には特に読んでいただきたい!非常にオススメの一冊です。
◆これは必読!
なぜ働いていると本が読めなくなるのか
三宅香帆 集英社 2024-4-17
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■【要約】15個の抜粋ポイント
「自己啓発書の流行」というと現代において最近はじまったもののように感じられる。
しかしその源流は明治時代にすでに輸入され、「成功」「修養」といった概念とともに日本の働く青年たちに広まっていたのである。
『西国立志編』からはじまり、「成功」などの雑誌に至るまで、欧米の自己啓発思想の輸入は、日本のベストセラーをつくり続けていた。
労働者と新中間層の階層が異なる時代にあってはじめて「修養」と「教養」の差異は意味をなす。
だとすれば、労働者階級と新中間層階級の格差があってはじめて、「教養」は「労働」と距離を取ることができるのだ。
そう考えると、令和の現代で「教養」が「労働」と近づいているーーつまり「ビジネスパーソンのための教養」なんて言葉が流行しているのは、もはや「教養」を売る相手がそこにしかいないからだろう。
昭和初期のベストセラーになったエンタメ小説は、どれも新聞や雑誌に連載され、それをまとめて単行本化され、売れた。
この時代に「雑誌や新聞連載で人気が出た小説が、単行本になりベストセラー化する」という流れができていたのだ。
雑にまとめてしまえば、高度経済成長期の長時間労働は、日本の読書文化を、結果的に大衆に解放したのである。
サラリーマンが増えた時代、みんな働いているのだから、働いている人向けの本を出すのが、一番売れるはずだ。
出版社はそのように考え、余暇時間の少ないサラリーマンに売るために、サラリーマンに特化した本ーーつまり「英語力」や「記憶力」を向上させるハウツー本や、読みやすくて身近なサラリーマン小説を誕生させたのだ。
そしてそれは結果的に、労働者階級に読書を解放することになった。
読書が大衆化し、階層に関係なく、読書するようになる時代の到来である。
1970年(昭和45年)の時点で、テレビの登場によって本の影響力の弱体化を危惧する声はあった。
だがテレビによって小説はむしろ、歴史小説やエンタメ小説といったジャンルのベストセラーを生み出すことに成功したのではないか。
事実、『天と地と』はテレビがなかったらここまで影響力を持たなかったのだ。
いつだって、私たちは書店に行かないと本が選べないわけではない。
書店の外側でーーあるときはテレビで、あるときはスマホでーー本への入り口を得ている。
つまりは企業が期待するサラリーマンであってくれるための努力を、社員が勤務時間外に、自発的におこなうことーーそれは「自己啓発」という概念に収斂されていった。
それは60年代的な、高度経済成長期の企業文化にたしかに存在した「みんなが横並び」「みんなで頑張る」世界観の綻びでもあった。
読書や教養とはつまり、学歴を手にしていない人々が階段を上がろうとする際に身につけるべきものを探す作業を名づけたものだったのかもしれない。
自分に対して、何か行動を起こすことによって、自分を好転させる。
あくまで「行動」を促すことで成功をもたらすという自己啓発書のロジックの原点は、『脳内革命』のベストセラー化にあったのだ。
<行動>を促すことが自己啓発書の特徴だとしたら、自己啓発書が売れる社会とはつまり、ノイズを除去する行動を促す社会なのである。
働いていて、本が読めなくてもインターネットができるのは、自分の今、求めていない情報が出てきづらいからだ。
求めている情報だけを、ノイズが除去された状態で、読むことができる。
それが<インターネット的情報>なのである。
読書は欲しい情報以外の文脈やシーンや展開そのものを手に入れるには向いているが、一方で欲しい情報そのものを手に入れる手軽さや速さではインターネットに勝てない。
大切なのは、他者の文脈をシャットアウトしないことだ。
仕事のノイズになるような知識を、あえて受け入れる。
仕事以外の文脈を思い出すこと。そのノイズを、受け入れること。
それこそが、私たちが働きながら本を読む一歩なのではないだろうか。
本のなかには、私たちが欲望していることを知らない知が存在している。
知は常に未知であり、私たちは「何を知りたいのか」を知らない。
何を読みたいのか、私たちは分かっていない。
何を欲望しているのか、私たちは分かっていないのだ。
だからこそ本を読むと、他者の文脈に触れることができる。
自分から遠く離れた文脈に触れることーーそれが読書なのである。
仕事や家事や趣味やーーさまざまな場所に居場所をつくる。
さまざまな文脈のなかで生きている自分を自覚する。
他者の文脈を取り入れる余裕をつくる。
その末に、読書という、ノイズ込みの文脈を頭に入れる作業を楽しむことができるはずだ。
それは決して、容易なことではないかもしれない。
複雑なことかもしれない。
しかし私たちは、その複雑さを楽しめるはずだ。
私たちは、さまざまな文脈に生かされている。
仕事だけに生かされているわけじゃない。
●働きながら本を読むコツ
(1)自分と趣味の合う読書アカウントをSNSでフォローする
(2)iPadを買う
(3)帰宅途中のカフェ読書を習慣にする
(4)書店へ行く
(5)今まで読まなかったジャンルに手を出す
(6)無理をしない
■【実践】3個の行動ポイント
【2130-1】書店へ行くことを習慣にする
【2130-2】帰宅途中やスキマ時間のカフェ読書を習慣にする
【2130-3】「読書できる=心に余裕がある証拠」と捉える
■ひと言まとめ
※イラストは、イラストレーターの萩原まおさん作
■本日の書籍情報
【書籍名】なぜ働いていると本が読めなくなるのか
【著者名】三宅香帆 ・ 著者情報
【出版社】集英社
【出版日】2024/4/17
【オススメ度】★★★★★
【こんな時に】読む力を身につけたいときに
【キーワード】社会、考える、教養
【頁 数】288ページ
【目 次】
まえがき 本が読めなかったから、会社をやめました
序章 労働と読書は両立しない?
第一章 労働を煽る自己啓発書の誕生ー明治時代
第二章 「教養」が隔てたサラリーマン階級と労働者階級ー大正時代
第三章 戦前サラリーマンはなぜ「円本」を買ったのか?ー昭和戦前・戦中
第四章 「ビジネスマン」に読まれたベストセラーー1950~60年代
第五章 司馬遼太郎の文庫本を読むサラリーマンー1970年代
第六章 女たちのカルチャーセンターとミリオンセラーー1980年代
第七章 行動と経済の時代への転換点ー1990年代
第八章 仕事がアイデンティティになる社会ー2000年代
第九章 読書は人生の「ノイズ」なのか?ー2010年代
最終章 「全身全霊」をやめませんか
あとがき 働きながら本を読むコツをお伝えします
▼さっそくこの本を読む
なぜ働いていると本が読めなくなるのか
三宅香帆 集英社 2024-4-17
Amazonで探す Kindleで探す 楽天で探す
三宅香帆さん、素敵な一冊をありがとうございました!
※当記事の無断転載・無断使用は固くお断りいたします。
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