【書評:2170冊目】マーケティングのための因果推論(漆畑充、五百井亮)

【困難さを乗り越える武器を授ける】
データサイエンティストの漆畑充氏と五百井亮氏が、『マーケティングのための因果推論』と題して、マーケティングに用いることを前提とした「因果推論」の手法を詳細に解説する一冊。

■書籍の紹介文

マーケティング施策の効果分析。
これで本当に正しいのかと、不安になることはありませんか?

 

本書は、マーケティングの効果分析における「効いているはず」を「確かに効いている」に変えるには、『因果推論』の手法を用いるべきと提起し、基本から応用までその手法を詳細に解説する一冊。

 

広告費を掛ければ売上が上がる、という”相関”関係は容易に見つけられます。
一方で、どの広告施策がどれだけ売上につながったのか、その”因果”関係の特定は容易ではありません。

 

なぜなら、売上はその他のさまざまな要因が合わさった結果だからです。
「売上上昇のこの部分は、この広告施策の結果である」とは明言しにくいのです。

 

つまり、この話の大前提には、必ずこれが存在します。
『因果関係を特定することは困難である』と。

 

しかし、困難だからと特定を諦めてしまってはビジネスではありません。
たとえ困難であっても、どうにか特定する手段はないかと考え続けることで道はひらけていきます。

 

そこで、データ分析のスペシャリストである2人の著者があなたに授けたい武器というのが。
この本のテーマである、『因果推論の手法』の活用です。

 

相関関係の曖昧さを払拭し、特定困難の壁を乗り越えて、説得力のあるマーケティング戦略立案を実現する。
そのために有用な因果推論の基本から応用までを、具体的かつ詳細に解説していきます。

 

内容は極めて専門的です。
マーケターとしての基礎的なスキルは身についている、中〜上級者向けの内容だと感じます。

 

ただ、学術書レベルの難解さはかなり取り除かれています。
難解な数式も排除してくれているので、「意味が分からない」と読書が破綻してしまうことはないでしょう。

 

シビアさが増す経済状況。
マーケティング施策にかけられる予算も、一層厳しく精査され分析されることは間違いありません。

 

そんな状況に屈せず、いかに説得力のある提案ができるか。
極めて修得の難しい武器ではありますが、修得できたときの威力は想像以上でしょう。

 

◆乗り越えた先に勝機あり!

マーケティングのための因果推論
漆畑充、五百井亮 ソシム 2025-2-26
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■【要約】15個の抜粋ポイント

データは相関関係を教えてくれるのですが、因果関係については可能性を示唆するにとどまります。
因果推論の基本は、常識やドメイン知識から検証すべき因果仮説を構築し、データの限界を補いながらその仮説を検証することです。

 

正しく分析するためには、まずは妥当な因果仮説を立て、それを元に効果を検証したい変数以外が同じ条件になるような2群を比較します。
その方法として、ランダム化実験や層別分析、傾向スコア分析などがあります。

 

本書では、マーケティングとは「誰に対して」「どのような価値を」「どのように提供するのか」「それをどのように伝えるのか」を、目標達成のために決定し実行して行くプロセスの総称とします。

 

●広告効果の検証が難しい理由
(1)商習慣による制約
(2)媒体によって利用できるデータが異なる
(3)同時多発的な広告プロモーションによる、各種広告効果の切り分けによる困難さ
(4)広告以外の売上に与える要素の影響
(5)広告の長期的効果

 

精度の高い予測モデルを構築することと、因果関係をモデル化することは別。

 

ランダム化比較試験(A/Bテスト)は、因果推論の問題に対してシンプルかつ正確な方法です。

 

実験の正確性と収益性はトレードオフの関係にあります。
そして、収益と正確性のバランスを取りながら実験と収益獲得を同時に行う手法をバンディットアルゴリズムと言い、実験フェーズを探索(exploration)、収益獲得フェーズを活用(exploitation)と言います。

 

DAGを使う利点は、因果仮説と分析したい原因・結果を設定すれば、どの変数を調整(層別分析や値の固定など)すべきか、あるいはすべきでないかを比較的簡単に決定できることです。
調整すべき変数がわかれば、それごとに層別しクロス集計するだけなので簡単です。

 

「因果推論」における回帰分析の「説明変数に何を入れるか問題」はマーケターにとって大変悩ましい問題ですが、まずは因果仮説を立て、それに対応したDAGを構築、バックドア基準を満たす変数集合Zを特定するという流れを抑えておけば、この問題も恐れるに足らずということです。

 

あるマーケティング施策の効果を検証したいとき、施策の実施時点より後の期間に注目するために時系列データを利用することが重要になります。

 

●時系列データに関わる因果推論の手法
・差分の差分法
・合成コントロール法
・CausalImpact

 

選挙に限らず、マーケティングにおいてアンケート調査を実施する場面は多くありますが、やはりサンプルサイズの問題からは逃れられません。

 

抜け落ちた要因の影響を測定する方法に、感度分析があります。
感度分析によって、偏った結果をもとに意味のない施策や逆効果になる施策を推進してしまうことを防ぐことができます。

 

「統計的に有意」と「実用上有意義」は全く別の概念です。

 

近年では、マーケティング・ミックス・モデリングのためのライブラリも登場しています。
特に有名なものに、Metaが開発したRobynと、Googleが開発したLightweightMMMがあります。
両者は内部に実装されている手法が異なっており、Robynはリッジ回帰、LightweightMMMはベイズ回帰を用いています。

 

■【実践】3個の行動ポイント

【2170-1】「相関は必ずしも因果を示さない」ということを常に念頭においておく

【2170-2】導き出した結果が、本当に求めていることを示せているか、常に確認する

【2170-3】データと向き合う際、「データには限界がある」ということを常に意識しておく

■ひと言まとめ

※イラストは、イラストレーターの萩原まおさん作

■本日の書籍情報

【書籍名】マーケティングのための因果推論
【著者名】漆畑充著者情報
【著者名】五百井亮 
出版社ソシム
【出版日】2025/2/26
オススメ度★★★★☆
こんな時に明日のマーケティング力を磨きたいときに
キーワードビジネス理論数学的思考問題解決
【頁 数】332ページ
【目 次】
第1章 データは重要であるが万能ではない
第2章 マーケティングにおける因果関係
第3章 手間はかかるが信頼できる「実験」によるアプローチ
第4章 目で見る因果推論
第5章 時系列で見る因果推論
第6章 比べる因果推論
第7章 その他、様々な因果推論

 

▼さっそくこの本を読む

マーケティングのための因果推論
漆畑充、五百井亮 ソシム 2025-2-26
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漆畑充さん、五百井亮さん、
素敵な一冊をありがとうございました!

※当記事の無断転載・無断使用は固くお断りいたします。

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